大型メスアシダカグモ
生体のメスは、オスより胴体が大きい。
とくに腹部は幅があり、成熟や摂食、卵の発達に伴って重く膨らむ。オスが長い脚と細い身体によって移動性を強く感じさせるのに対し、メスは胴体の量感と脚の広がりが同時に存在する。
大きな腹部。
低い頭胸部。
そこから八方向へ伸びる脚。
アシダカグモのメスは、華奢だから脚が長いのではない。重い中心を、長い八本の脚が支配的に取り囲んでいる。
交接後、メスは平たい円盤状の卵嚢を作る。卵嚢の直径は約1.5センチほどで、内部には200個を超える卵が入ることがある。
メスは卵嚢を腹部の下へ抱えて運ぶ。
この期間は移動が制限され、卵嚢を守るための絹の隠れ場所を作ることもある。観察例では孵化までおよそ20日を要し、孵化後には多数の幼体が分散していく。
普段は高速で壁を走る捕食者が、卵嚢を持つとその場に留まり、身体の下へ何百もの卵を抱え込む。
速さと重量。
捕食と保護。
その両方が、同じ大型のメスの身体に存在する。
求愛と振動
アシダカグモのコミュニケーションでは、振動が重要な役割を持つ。
オスはメスの化学的な痕跡を検知すると、脚や身体を振動させ、接している床や壁へ信号を送る。求愛時には、条件によって人間にも低い唸りや震えのように聞こえる音を発することがある。
これは人間のような声ではない。
身体の振動が、床や壁という媒体を通って相手へ届く。
メスは言葉ではなく、振動の間隔、強さ、反復によって、近づいてくるものが獲物なのか、脅威なのか、同種のオスなのかを判別する。
アシダカグモの世界では、壁そのものが会話の場になる。
人間との関係
アシダカグモは毒を持つ。
ただし、その毒は主として小型の獲物を制圧するためのもので、人間に対する医学的な危険性は一般に低い。積極的に人を攻撃する習性もなく、人の接近を感じると逃げることが多い。
素手でつかむなど強く刺激すれば防御的に噛む可能性はあるため、触らないほうがよい。
家屋へ入る目的も、人間に近づくためではない。
暗く狭い隠れ場所があり、夜でも比較的温度が安定し、ゴキブリなどの獲物が存在するからである。
人間の家を守っているわけではない。
忠誠心もない。
害虫を退治してやろうという意思もない。
ただそこに獲物がいるから狩る。
人間が勝手にその恩恵を受け、勝手に階級を与え、「軍曹」と呼んでいるだけである。
アシダカグモは軍人ではない。